札幌家庭裁判所 平成4年(家)439号 審判 1992年6月03日
申立人 桜井一隆
未成年者 文光明
主文
申立人が、その妻文眩周(国籍・韓国、西暦1955年2月7日生)とともに、未成年者を養子とすることを許可する。
理由
1 申立ての趣旨
本件申立ての趣旨は、「申立人が未成年者を養子とすることの許可を求める」というものである。
2 当事者等の身上及び現状等の要旨
(1) 申立人は、昭和19年2月17日生まれで日本国籍を有する者である。一度婚姻離婚を経験した後、昭和46年12月24日、堀口みどりと再婚し、その間に、美和(昭和47年6月11日生)、誠一(昭和49年1月13日生)及び英樹(昭和53年4月19日生)を設けたが、昭和57年4月3日、みどりと死別した。その後、昭和59年1月17日、文眩周と再婚し、一旦離婚したが、間もなく平成2年10月23日、同女と再婚し、現在同女、前記3子及び未成年者の合計6人と申立人所有の家屋に同居して円満な家庭生活を営んでいる。
申立人は、○○市内の医薬品の販売等を営む会社に勤務して営業に従事し、年収800万円を超える収入を得て経済的に安定しているところ、養親としての資質等に欠けるところはない。
(2) 文眩周は、韓国で西暦1955年2月7日生まれ韓国籍を有する者である。西暦1981年(昭和56年)ころ結婚して来日したが、間もなく離婚し、その後も日本国において生活していた。その間、申立人と知り合って申立人と結婚するなどして現在に至っている。文眩周も養親としての資質を十分に備えている。なお、文眩周は、現在は主婦専業で、これまで有職の間も含めて前記美和ら3子の世話を良くしてきたが、実子がなく、自分の子が欲しいとの願望を強く持っている。また、日本における永住許可を得ている。
(3) 未成年者は、文眩周の実弟文眩國(韓国籍)とその妻洪華(韓国籍)の間の第2子2男として西暦1989年(平成元年)4月2日韓国で出生し成育した。しかし、文眩國が西暦1991年(平成3年)5月4日急死し、残された洪華は、未成年者ら2子の養育が困難な状況となり、親族間で援助等が話し合われたが、結局未成年者を養子に出すこととなった。
(4) 文眩周は、実子を望みながら年齢に照らし出産困難と考えていたことから、申立人と相談しその了解を得た上、未成年者を養子として養育することを申し出、洪華の同意を得た。そこで、申立人と文眩周は、渡韓の機会を利用して、平成3年12月11日、未成年者を伴って帰日し、以後養育している。なお、未成年者は、親族訪問の目的で来日したものであり、その在留期限は平成4年6月8日である。ところで、文眩周は、まず同人と未成年者との養子縁組をした後、申立人と未成年者との養子縁組をしようと考え、文眩周と未成年者との養子縁組届を同年(西暦1992年)2月7日韓国領事館に提出し、これが韓国に送られたが、韓国においては未成年者を養子とするには夫婦共同縁組が必要であるとして受理されず、申立人との養子縁組の許可を得るよう指導された経緯がある。
(5) 洪華は、西暦1992年(平成4年)5月19日、未成年者が文眩周とその夫の養子となることを承諾する旨の「入養(養子縁組)承諾書」を、ソウル地方検察庁所属公証人の面前で作成し、その認証を得た。
3 国際裁判管轄
申立人は、日本国に住所を有する日本人であり、また、未成年者は、韓国人で日本に住所(常居所)を有するものではないが、現在日本国の申立人夫婦のもとに所在し、その期間も5か月以上にわたるから、日本国に本件事件の国際裁判管轄権を認めることができる。
4 準拠法の決定と適用等
本件事件は、渉外養子縁組許可申立事件であるから、その準拠法は法例20条1項により養親の本国法、すなわち申立人の本国法である日本国法となる。そこで、日本国法をみるに、民法795条本文は、「配偶者のある者は、その配偶者とともにしなければ、縁組をすることができない」とし、いわゆる夫婦共同縁組を定めているから、申立人は、その妻文眩周とともに縁組しなければならない。ところが、文眩周は、韓国籍を有するから、法例の前記規定によれば、文眩周と未成年者との養子縁組の準拠法は韓国法となるが、韓国民法874条1項も夫婦共同縁組を定めている。このため申立人と文眩周は、ともに未成年者と養子縁組をすることが必要であるが、日韓民法に定める普通養子縁組の実質的成立要件・効果は類似するから、その実質的成立要件については申立人に日本民法を、文眩周に韓国民法を各別に適用して検討して差し支えない。もっとも、形式的成立の方法については、本件申立ては、夫婦の一方である申立人のみである点で検討を要するところである。
そこで、形式的成立方法をまず検討すると、日韓民法によれば、申立人と未成年者の養子縁組は家庭裁判所の許可を得た上で(民法798条本文)、縁組届が受理されることにより成立する(民法800条)のに対し、文眩周と未成年者の養子縁組は、家庭法院の許可を要せず、縁組届が受理されることにより成立する(韓国民法878条、881条)のであり、また、法例22条、20条によれば養子縁組の方式は行為地法によることができるところ、日本法が定める普通養子縁組の成立の方式は戸籍管掌者に対する届出である(民法799条、739条、戸籍法66条、68条)から、結局、申立人が未成年者を養子とするについての家庭裁判所の許可を得た上、申立人と文眩周の夫婦がともに未成年者と養子縁組する旨の届出を申立人と文眩周の夫婦と未成年者の代諾権者である法定代理人親権者母洪華(なお、未成年者は15歳未満のため代諾によることにつき民法797条、韓国民法869条、法定代理権につき韓国民法909条1項、911条)が戸籍管掌者にすることによりこれを成立させることも可能と解される。
次いで、申立人と未成年者の養子縁組につき民法所定の実質的成立要件について検討すると、前記認定したところによれば、縁組許可申立てを却下すべき事由はなく、また、法例20条1項後段が養子縁組の成立につき要求する保護要件、すなわち、未成年者の本国法である韓国民法869条の「養子となる者が15歳未満であるときは、法定代理人がこれに代わって養子縁組の承諾をする」点についても、前記認定のとおり未成年者の法定代理人親権者母洪華において未成年者が申立人・文眩周と養子縁組することを承諾し満足している。さらに、文眩周と未成年者の養子縁組につき韓国民法所定の実質的成立要件等について検討すると、前記認定したところによれば、縁組の成立を妨げる事由はなく、また、要件を満足している。
5 以上認定及び検討したところによると、本件申立てにかかる申立人と未成年者の養子縁組を許可することは未成年者の福祉に合致すると認められるが、夫婦共同縁組制度にかんがみ、主文のとおり審判する。
(家事審判官 納谷肇)